まちなかでの暮らしを考える

加賀藩主の参勤交代ルートとして、多くの人や物資が行き交った旧北陸道に面する築45年の住宅をリノベーションする計画です。
既存住宅は道路に面して商い空間をがあり、その奥に住居スペースがあるという町屋形式の住宅でした。 
周辺の住宅もかつては商いをしていたであろう佇まいをしていますが、現在は商いをやめて奥の住居スペースだけで生活しているような家が散見されました。
人が生活する空間が奥に配置されている町屋形式の家が並ぶ都合上、人の暮らしの営みが町に滲み出ず、どこか寂しい街並みである印象を受けました。

かつては賑やかに人々が行き交っていたであろう町でリノベーションを行うにあたって、現代的なまちと家のつながり方はないのかということが設計の主題になっていきました。

暮らしを開くこととプライバシーを両立させる

元々道路境界ギリギリまで商い空間として建っていた1階部分を敷地内に駐車スペースの確保のため大きく解体を行いました。
元々あった2つの中庭を「町に緑を提供する庭」と「住まい手が使う庭」として計画し、道路に近い中庭には玄関を設けて、道路から中庭までの動線を作りました。
また、その中庭に面してダイニングを設け、道路面から人の生活の営みが垣間見えるような構えとしています。
道路→長いアプローチ→中庭→ダイニングといういくつかの層と距離を重ねることでプライバシーをゆるく確保し、生活を少しまちに開放するという構成です。

間口の狭さと暗さを許容する

・隣家との離れがほとんどなく、自然光の取り入れが難しい条件
・間口が狭い
一見ネガティブに捉えてしまう要素をポジティブに変換したいと思いました。

自然光は無理に確保することなく、インテリアも白い空間で明るく見せるということもしない計画とし、ほの暗い室内から明るい外を眺めるという設えとしました。
結果、庭がより美しく際立つ存在とすることができました。

間口の狭さは、「間口は狭いがその分奥は長い」と変換し、奥行の長さを生かすような空間構成を考えました。
玄関に入ると、視線が家の一番奥まで見通せるような構成とし、間口が狭いからこそ得られる視線の抜けと開放感をつくりました。

家が建つ場所の歴史や周辺住宅の建ち方、既存住宅の空間構成から着想を得たこの家は、まちと家、家とひと、ひととまちの関係をつなぐものとなったのではないかと思います。